(3)チャンバー型 トランスミッションライン


菅野君とDr.Scottとのコレスポンダンス

菅野:「チャンバー型TLについて教えてください。

 Dr.Scott:OM-MF4MICAのチャンバー型TLは、TLと伝統的なバスレフ理論を用いていますが、これはあまり理解されていません。 大きな容積を持つチャンバーを、軽くダンピングされた短いライン(≒ポート)と結合して使用します。

菅野:たしかTDL>というメーカーもこの方式を採用していませんでしたか?

Dr.Scott:はい、TDLがラウドスピーカーのファイナル・レンジで使用したことで有名ですね。

他の多くのTLのバリエーションと比較して、制御されたロールオフと高調波モードの減少により、小型ドライバーに適した低音の拡張を実現します。

また、ラインの端の吸音材量を調整することで、好みに合わせて簡単にチューニングできます。

菅野:この方式は、基本的にバスレフとして考えていいのでしょうか?

トランスミッションライン方式はλ/4共振管としても機能するとのことですが、

スコット博士が設計したこのタイプもλ/4共振管として機能するのでしょうか?

Dr.Scott:これは、定義と機能の問題でもあります。定義については、実はTLとは何かという明確な定義はありません。λ/4共鳴管の特性を組み込んだボックスを表現するために使っています。

「伝統的な」という言葉を加える場合は、そのボックスがArthur Baileyのオリジナルデザインの特性(通常は折れ曲がったポートと、うまく制御された低域特性など)を持っているということも意味しています。

このチャンバーライン(そしてTDL市販スピーカーの最後のもの)がそうです。

菅野:なるほど、つまり「バスレフとλ/4共鳴管の挙動を示し、ラインの吸音材で低音の特性を調整できる」というものが伝統的なTLの形で、そして今回のチャンバー型TLもそれに当てはまるということですね。

この折れ曲がったラインは音響迷路として機能し、中域の漏れなどを減少させる効果もありそうですが…

Dr.Scott:結果としてそういう効果もあるかもしれませんが、このラインはあくまで低域の特性を制御するためのものであり、

単に望ましくない反射による中域の漏れなどを取り除くために追加されるものではありません。

そして吸音材に位置についてですが、粒子速度が最大となる(空気が最も大きく動く)ラインの出口に配置すると最も効果的です。

菅野:よくわかりました。スコット博士が以前にOM-MF5用に設計された同じようなTLエンクロージャーのインピーダンス特性を測定してみました。

青線がラインの吸音材なし、緑線がラインの吸音材ありの特性です。

この特性から考えると、吸音材が少なければバスレフやλ/4共鳴管の特徴が多く現れ、吸音材が多ければ密閉型の特性に近づくように思えます。

Dr.Scott:はい、吸音材と挙動の関係は多かれ少なかれその通りです。ダンピングを大きくすると、ラインからの出力が徐々に減衰し、特に低域においてインピーダンスカーブも平坦になります。この現象は緑のカーブで見ることができますね。

また、上側のピークが減少し始め、ごくわずかに低い周波数にシフトし、330Hzから500Hzの間の小さなパイプ共振も平坦化されています。

ラインのダンピング量を増やすと、徐々にクリティカルダンピング(インピーダンスが最大に平坦になること)に移行します。

しかし、吸音材をたくさん詰めたからといって、密閉型と同じような挙動を示すわけではありません。

 

菅野:インピーダンス特性を測定したとしても、その挙動を完全に理解できるわけではないということですね。

Dr.Scott:そうなんです。共振周波数付近の2つのインピーダンスピークは、実は、なんらかの通気孔のあるエンクロージャーの特徴であり、それがλ/4共鳴管(TLとバックロードホーン)であろうとヘルムホルツ共鳴(バスレフ)であろうと関係なく、すべてそのような特性を示し、互いに何らかの関係があるのです。もちろん、λ/4共鳴管のボックスはパイプの高調波モードが減衰されないと、インピーダンス曲線にさらなるピークを示すことになります。その共鳴をどうコントロールするかは、設計者次第です。

 菅野:詳しい解説、ありがとうございます。実は私もOM-MF519を使用してTLエンクロージャーを作ったことがあるのですが、

TLについてよく理解しないまま設計していました。結果として良い音になったのですが、今の話を当時聴けていたらもっと良いものを作れていたかもしれません(笑)